速記と文字起こしはどう違う?
文字起こしは近年、ビジネス、法律、医療など、多くの分野で利用されています。会議やインタビューの音声やその録音を読める形にするために、広くご利用になる機会があるのではないでしょうか?
速記、文字起こしともに音声をテキストにすることを指すケースが多いですが、同一の意味ではありません。それぞれに適した利用方法や使用方法もあります。今回は違いと手法、活用法をわかりやすくご説明していきます。
速記とは?
速記は、通常の文字を手で書くよりも速く、かつ正確に、発話の音声を書きとどめるため使用される技術のことです。例えば、慣用句、略語や記号などを使用することで、発話の内容を短時間で記録できるようになります。
また、速記の歴史は長く、昔から手法、技術を常にアップデートし続けられている技術とも言えます。日本の速記術は、田鎖綱紀(たくさり・こうき、1854年-1938年)が明治時代に発表した「日本傍聴筆記法」が始まりとされています。
速記で使用される様々な手法
手法には様々ありますが、速記とはその名の通り、発話の内容を手書きで速く記録に残すものです。人の話は、音韻の数にすると1分間で300文字前後になるといわれており、速記するには1秒間に5文字前後を書き留める計算になります。速記における最高峰の資格とされる「速記士1級」を取得するには、毎分320文字を98%以上の精度で記録できなければなりません。
その速さに追いつく為に、線や点等の符号のほか、慣用句や略語などを使用する手法もあります。どの手法も、文章を短時間で書くことが可能であるという点では共通しています。速記したものを、後から解読できる形で記録していくのが特徴です。
速記方式の例を紹介
あくまで便宜的な分類ではありますが、使用される手法・方式の例をご紹介します。
まず、速記用の特殊な符号や、仮名文字に早く書ける工夫を加えたものを、手書きする「記線式」と、速記用のタイプライターやパソコンで入力する「印字式」(機械式)に大別されます。
手書きする速記の符号にもいろいろあり、1筆で書く「単画派」、2画で書く「複画派」、両派の中間の「折衷派」などに分類されます。文字起こしに携わったご経験をお持ちの方であれば、中根式や衆議院式(単画派)、参議院式(複画派)、早稲田式(折衷派)といった速記の方式名を耳にされたこともあることと思います。
速記の有用な活用方法
速記の大きな利点として、コンプライアンス上の制約等によりビデオカメラやレコーダーで会議等の録画や録音をできない場面でも、素早く効率的に文字起こしや文書記録の作成を行うことが可能です。
- 公文書に残すべき場での発言の効率的な記録の作成
国会や地方議会における会議録、民間でも行われている各種会議の議事録、講演、討論会などにおける議論や意見を、素早く正確に文字の記録にできます。 - 商業文書の作成
商談や交渉における口頭でのやりとりを、短時間のうちに文書の記録に残せます。 - 記者さんや秘書さんなどの仕事上の利用
インタビューや記事などを取材・執筆する際、メモを取るために速記が必要な場面も多いのではないでしょうか?
録音用のレコーダーや、入力用のキーボードといった機材がなくても、筆記用具を持った生身の人間が現場に臨場してさえいれば、すぐに開始できるのも、速記の強みでしょう。
ただ、一方では、現場で時間は巻き戻せないという“一発勝負”の側面もあるようです。当社所属の速記士の一人は、「万一の筆記具不調に備えて、常用の筆記具のスペア携行が欠かせない」と話してくれました。
文字起こしとは?
文字起こしは昨今、PC等への手入力や、人工知能(AI)を使った音声認識によって、音声データをテキストデータに変換することを指すようにもなりました。会議の録音やインタビューなどのオーディオデータをテキストに変換しておくことで、後になってから検索したり引用したりするのが格段に容易となります。
キーボード等を介した人手による文字起こしは、音声やその録音を聞きながら手動で文字を打ち込むものです。一方、機械による文字起こしは、音声認識ソフトウェアを使用して、音声を自動的にテキストに変換します。
文字起こしは「反訳」とも言われます。
文字起こしと反訳の違いは何?
文字起こしのことを「反訳」と呼ぶことがあるとご紹介しましたが、反訳の元の意味は複数あります。どちらも文章にまつわる言葉ではありますが、どのように使われ、どう違うかご説明いたします。
反訳とは?
- 文章を別の言語に翻訳すること
- 翻訳された言葉をもとの言葉に戻すこと
- 音声による発言や会話の内容を文字で読める形にすること
上記の意味合いがあります。
先にご紹介させて頂いた、速記方式による記録を漢字仮名交じりの日本語にすることも「反訳」です。
翻訳としての意味では、外国語を日本語等に反訳する技術の進歩により、翻訳ソフトウェアやオンライン翻訳サービスなどを使用して、自動的に行うことも可能です。人間・機械のどちらが行った翻訳も「反訳」と呼ぶことができます。時代の流れとともに、速記や翻訳をするサービスの需要が減ってきたことにより、「反訳」という言葉は「文字起こし」のことを指すようになってきています。
とはいえ、広義での「反訳」は、文章を理解するための一つの手法であり、原文の意味を正確に理解するために行うものと言えます。
文字起こしは録音音声の反訳のこと
以前は文字起こしを反訳と呼ぶのは間違いと言われたりもしましたが、今では翻訳のことを反訳ということは少なくなり、録音音声の文字起こしを指すことが主流になりました。
文字起こしの種類、内容を紹介
反訳では、録音やインタビュー録画などのオーディオデータをテキストに起こすとご説明いたしましたが、作業内容によって呼び方や意味が異なります。
- 逐語反訳(ちくごはんやく)
音声データを、聞こえた通り、そのままテキストデータに起こします - ケバ取り
後述するような無意味語を取り除きます - 整文反訳(せいぶんはんやく)
文章として読みやすく、文法的にも適切な形に仕上げます。文字や単語の明らかな読み間違いがある場合には、文意を損ねない範囲で修正することもあります
それぞれ詳しく紹介していきます。
逐語反訳(ちくごはんやく)
逐語反訳(ちくごはんやく)は、音声をそのまま、つまり素のままテキストデータに変換(文字化)することを指し、「素起こし」とも言われます。「あのー」「えー」等、特に意味を持たず、なくても差し障りのない言葉を、業界では「ケバ」などと呼びますが、これらもすべて聞こえた通り忠実に再現します。
音声認識技術を使用して、音声データから文字情報を抽出し、それを文字列に変換する機械反訳の結果は、逐語反訳に近いものになります。
逐語反訳には、文法や構文などの誤りが含まれる可能性があります。また、話し言葉でよくあるような不規則な表現や、慣用句、略語などがそのまま反映されるため、読みにくい文章になってしまう場合が少なくありません。
用途としては、学術研究や裁判資料など、記録としての正確さが求められる文書が考えられます。
ケバ取り
ケバ取り(けばとり)とは、そのまま文章にすると読みづらくなる無意味語を取り除く作業のことを指します。
上述の「ケバ」以外は、話者の音声を忠実に起こした文字列になります。話し方の癖や、倒置法による強調など、臨場感をある程度残すことができるのも特徴となります。
整文
整文反訳(せいぶんはんやく)とは、文章を見やすく、読みやすく、文法的にも適切な形に修正することを指します。
整文作業は、文字起こしによって作成された文章を読みながら、文法、構文、表現、スタイルなどをチェックして、文意を損ねない範囲で読みやすい文章にするためのものです。人間や機械による文字起こしには誤りや不規則な表現が含まれることがあるため、整文をすることで文章を読みやすく文法的に正しい形に仕上げます。
まとめ
以上、今回は速記と文字起こしのどこが違うかや、それぞれの内容などをご紹介しました。
AIによる音声認識を用いた自動反訳技術の進展は、近年、目覚ましいものがあり、マンパワーによる文字起こしの代替手段として注目を集めています。
とはいえ、文字起こし業界では、依頼主から速記の有資格者の現場派遣を求められることも少なくありません。会議録や議事録の作成において、単に音声を文字化すること以上の付加価値が求められる際には、現場での勘どころを熟知している速記経験者のニーズが根強くあるようです。
例えば、何人もの人が同時にしゃべり出すなどして録音での聞き分けが困難な音声を話者別に聞き分けたり、カメラの死角となって録画できない話者の動作まで描写したりといった注文に応えられるのは、やはり場慣れした速記のプロならではの能力と言えます。
速記と文字起こしを、皆様の目的に合わせてご活用いただければ幸いです。