2020年05月13日

「文字起こしは外注」も選択肢 コア業務に専念してアフター・コロナを生き延びる

今は新型コロナウイルスの感染拡大に端を発する経済的ダメージから少しでも早く立ち直り、ピンチをチャンスに変えるべき時。文字起こしのような、付加価値の極めて低い作業で組織内の人的資源を浪費してしまうことは大きな損失となります。

少子高齢化が進む一方、ワーク・ライフ・バランスの意識が高まるにつれ、労働力不足は今後さらに深刻化するとみられます。そうした時勢の下でも事業の存続を確かなものとするには、価値を生む業務にこそ人的資源を集中したいものです。議事録や発言録が必要な企業や団体にとって、文字起こしはアウトソーシングすべき作業の筆頭候補といえるでしょう。

 

文字起こし外注でアフター・コロナを生き延びる

 

目次

1. 外注せずにいるデメリットは見えにくい

アウトソーシングは、注力すべきではない業務を専門業者に外注して、「時間と、手放す業務の質を、お金で買う」ものといえます。つまり、浮いた時間と人手でコア業務に磨きをかけるというチャンスを手に入れる。このチャンスを上手く活かせれば、外注のコストを上回る価値を創出できる可能性があります。

ただし、成果は保障されていません。かといって、注力すべきではない業務をいつまでも抱えていると、アウトソーシングで積極果敢にチャンスに挑む競合に後れをとることになります。加えて、注力すべきではない業務で人材を疲弊させ続けていると、今後の人手不足に対応できなくなるおそれもありそうです。

 

2. 文字起こしの料金相場

文字起こしを専門業者に依頼すると外注費が発生し、短期的にはコスト増となります。録音された音声の文字起こしにかかる料金は、音声1分間あたり100円未満から500円超までさまざまですが、200円前後のところが多いようです。

同じ専門業者でも、納期や、反訳の仕方(逐語反訳・ケバ取り・整文など)、要約や多言語対応の要否などによって、料金は一律ではありません。繁忙度によって料金の設定が変動する業者もあります。

「文字起こし 外注」といったキーワードでインターネットを検索すると、専門業者の比較サイトが上位でヒットします。掲載されている専門業者の多くは、自社サイトで料金体系を開示しています。各社のサイトから実際に見積もりを依頼してみると、相場観をつかめるでしょう。

 

文字起こしの料金相場を掴む

 

3. 文字起こしの外注は損か得か

文字起こしを内製すれば、専門業者への外注費は抑えられます。ただし、組織内で文字起こしに従事する人材の時間コストが発生している点は要注意です。

録音された音声を再生しながら文字起こしをする場合、実録音時間の何倍もの時間がかかります。仮に時間給2,000円の人材が録音1時間分の文字起こしに6時間を要した場合、12,000円を投入している計算になります。これは、録音された音声1分間あたりの文字起こしを200円で請け負う専門業者に外注するのと同等のコストといえます(200円×60分=12,000円)。

経営層や上級幹部が機密事項を議論する会議などで、時間給の高額な役職者が文字起こしを担当する場合には、内製で生じる時間コストが外注費を上回ることもあり得ます。それで果たして経費を節約したことになるのかどうか、慎重に見極めることが肝要です。

なお、文字起こしを内製する労力は、人工知能(AI)を応用した音声認識のサービスや議事録作成支援ソフトを利用することで、従来よりも軽減できる可能性があります。上手く使いこなせれば、文字起こしに従事する人材の時間コストを圧縮できそうです。これについては機会を改めて検証していきます。

 

4. 注力すべきでない業務を手放さずにいる代償

本来業務を抱えている従業員にとって、創造的でない作業を命じられて時間と労力の負担を背負わされるのは辛いものです。そのような作業に熟達したとしてもキャリア形成には活かせないとしたら、人材の育成や活用の観点からも合理性を欠くといえます。

そのような作業をアウトソーシングせずにいると、外注経費は節約できても、従業員の満足度や幸福度を大きく低下させてしまうおそれがあります。その結果、当該従業員は本来業務の効率が落ちるだけでなく、心身の不調にも陥って、最悪の場合、職場を去ることにならないとも限りません。注力すべきでない業務のアウトソーシングをためらうことは、人的資源の損耗を招く危険もあるといえるでしょう。

 

人的資源の損傷を招く危険

 

5. 労働力不足は着実に進行

いよいよ労働力不足に陥ったとき、人材をすぐに補充できるのかというと、現実はそう甘くはないようです。

 

生産年齢人口の推移
出典:経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」(2018年)

 

少子高齢化が急速に進んでいる我が国では、2011年以降、人口増加率が一貫してマイナスで推移しています。2019年末の総人口は約1億2,600万人ですが、国などが公表している将来人口の予測によると、2050年にかけて約1億人にまで減ってしまう見通しです。

厚生労働白書などによると、15~64歳の、いわゆる生産年齢人口の割合も減少が加速しています。ピークだった1992年には69.8%ありましたが、2050年にかけて50%台前半へと減り続けるとされています。

実際の労働力の動向には、女性や高齢者の就労割合や、外国人労働力の流出入なども絡みます。パーソル総合研究所と中央大学による共同研究「労働市場の未来推計2030」(2018年)は、そうしたさまざまな要因も加味したうえで、国内では2020年の時点で既に384万人の人手が不足すると予測しています。人を雇いたくても雇えない時代が、もう始まっているのです。

 

6. いま人手が足りていても安心はできない

この共同研究は、2030年に人手不足は644万人に及ぶとしています(労働需要7,073万人に対し、労働供給は6,429万人しか見込めない)。そして、この不足分については、働く女性や高齢者、外国人を増やすだけでは解消できないとする見解も示したうえで、「生産性を上げて労働需要を減らすことが不可欠である」と提言しています。

 

644万人の人手不足をどう埋めるか?
出典:パーソル総合研究所・中央大学「労働市場の未来推計2030」(2018年)

 

企業や団体は今いる働き手を、注力すべきでない業務で疲弊させ、生産性を低下させている場合ではありません

2019年4月に施行された働き方改革関連法は「長時間労働の是正」を柱の一つに掲げており、国は時間外労働の上限規制を導入するなど、労働時間短縮の取り組みを強化しています。人手不足は残業で乗り切るという発想も、最早許されなくなっています

アフターコロナを生き抜くには、業務を棚卸しして、付加価値の高いコア業務にこそ組織内の人的資源を集中することが急務といえるでしょう。

 

付加価値の高い業務に人的資源を集中させる