2021年11月22日

文字起こしの依頼に備えて地理の知識を蓄えよう――「行ったつもり」の国内探訪(東日本編)

当コラムでこれまでお伝えしてきた通り、文字起こしには幅広い知識が求められます。日本語全般についてはもちろん、外国語、現代風俗、社会・経済・政治・法律・科学・芸術・歴史などなど、とにかく「言葉」を蓄えることが上達の秘訣です。

「行ったつもり」の国内探訪

 

 

 

目次

1.文字起こしの隠れた武器になる「地名」

文字起こしで求められる知識の中でも、意外と重要なのが「地理」です。「プロが携わる文字起こしのジャンル(その1)」で触れたように、文字起こしを専門に請け負う会社では、多くの場合、官公庁や地方自治体からの外注(アウトソーシング)が業務の中心になっています。当然ながら、依頼主の自治体が日本のどの辺にあるかは頭に入れておかないと、ミスの元になります。例えば、山間部にあるはずの市町村の会議で「海」の話題ばかり出てくるようなら、聴き取りミスのおそれ大。もう一度聞き直したほうがよさそうです。

また、「札幌」「仙台」「名古屋」などの大都市名を聞き間違えたり、誤表記したりしているようでは、原稿の信頼性が大きく揺らぎます。ほかがどれほど完璧に反訳されていても、それだけで依頼主に「この反訳者、本当に大丈夫か?」と不安を与えてしまいます。最低でも47都道府県の県庁所在地くらいは、しっかり覚えておかなければいけません。

反対に、誰でも自分の地元の話題は好きなもの。あまり知られていない地元の名所や観光地がきちんと文字起こしされていれば、依頼主は「よく調べてくれた!」と喜んでくれるはず。というわけで、筆者は、地名や名産品・特産品などは、できる限り調べるよう心がけています。好印象を与える「武器」になるからです。

 

 

 

2.文字起こしで地理絡みの固有名詞を誤らないコツ 北海道~中部地方の注意点

現在、気軽にあちこちへ足を伸ばしにくい状況が続いています。部屋に籠もって独り黙々と文字起こしを続けていては、どうしても息が詰まってしまいますよね。そこで、今回はちょっぴり気分転換。〈東日本編〉〈西日本編〉の2回に分け、各地のトピックを幾つかご紹介したいと思います。少しでも「行ったつもり」で息抜きになれば幸いです。もちろん文字起こしのヒントも兼ねています。

 

 

(1)北海道・東北

北海道は、道南・道央・道東・道北の4区分に分けられます。地名は、ほとんどがアイヌの言葉に漢字を当てたもので、「胆振(いぶり)」「釧路(くしろ)」「留萌(るもい)」など特異な表記が多く、きちんと調べないと必ず間違えます。

札幌に次ぐ2番目に大きな市は、旭山動物園で有名な「旭川市」。地図の右肩から突き出している細い半島が、世界遺産の「知床(しれとこ)」です(アイヌ語で「陸地の先端」の意味)。国道・県道のように(北海)道が指定・管理する「道道(どうどう)」があり、「道々」とは表記しない点に注意が必要です。

東北は、青森・岩手・秋田・宮城・山形・福島の6県を指します。青森の「ねぶた祭」、秋田の「竿燈まつり」、宮城の「仙台七夕まつり」、山形の「花笠まつり」を合わせて「東北四大祭り」といいます。「祭/まつり」の表記に違いがあり、それぞれが固有名詞になっているので、文字起こしの際には各自治体の公式な情報で確認するようにしてください。

 

文字起こしの隠れた武器になる「地名」 

 

(2)関東

東京・神奈川・千葉・埼玉・群馬・栃木・茨城の1都6県が関東地方です(山梨を加えて「首都圏」と称することもあり)。国会議事堂、各省庁を有し、「日本の行政の中枢」のため、地方の議会でも頻繁に地名が登場します。東京23区を中心に複雑な交通網が形成され、都内だけでも実に650を超える駅があります。

注意すべきは、駅名と住所地で異なる表記をしている場合があることです。例えば、住所地名は「霞が関」なのに、地下鉄日比谷線の駅名は「霞ケ関」。住所地名は「丸の内」でも、地下鉄の路線は「丸ノ内線」「お茶の水」にあるのは「御茶ノ水」駅です。ちなみに、「霞ヶ関」だと埼玉県川越市にある東武東上線の駅になり、「丸の内」駅だと名古屋市営地下鉄の駅になります(ああ、ややこしい!)。ワープロで変換して出た文字に慌てて飛びつくと、こうしたミスを犯してしまいます。話の流れで、地名なのか駅名なのかを推測・判断しなければなりません。

※地名をめぐる悩ましい事例については、当サイトのコラム「調べども調べきれないもどかしさ 音声ファイルの正確な文字起こしを阻むもの」もご一読ください。

 

 

(3)中部

北陸(新潟・冨山・石川・福井)、中央高地(長野・山梨)、東海(静岡・愛知・岐阜・三重)を含めた、まさしく「日本の中央部」に当たる広い地域です(三重県を近畿地方に含む区分もあり)。

太平洋側は名古屋を中心に大都市圏が形成されています。「交通の大動脈」と呼ばれる東海道新幹線や東名高速道路が走り、関東と関西をつないでいます。近年は、発生が懸念される東海地震の話題が取り上げられることが多いので、「災害対策」「防災訓練」に関連するワードをチェックしておくとよいでしょう。

日本海側は、2015年の北陸新幹線・金沢駅開業を機に「観光客誘致」の話題が多くなりました。2023年には福井県敦賀市まで延伸する予定なので、しばらくは同様の傾向が続きそう。「善光寺」(長野県)、「兼六園」(石川県)、「東尋坊」(福井県)、「白川郷」(岐阜県)、新しいところでは「なばなの里」(三重県)などの名所は、さらっと聴き取りたいところです。

 

文字起こしで地理絡みの固有名詞を誤らないコツ

 

 

3.文字起こしのスキルアップには「調査力」が必要

多かれ少なかれ、人は誰しも自分の生まれ育った地域に愛着を持っているもの。それゆえに、正しい地名表記は原稿の印象を左右するポイントになります。また、そうした細かい点にまで気を配ることで、知識も豊富になり、文字起こし能力全体の底上げが図れます。「地図マニア」になる必要はありませんが、ネットで検索できる地名くらいは、文字不明のカタカナ表記で残したり、ブランクや「聴取不能」で処理してしまったりすることのないように心がけましょう。

※次回は〈西日本編〉です。

 

文字起こしのスキルアップには「調査力」が必要