2021年12月06日

文字起こしの気分転換に「行ったつもり」の国内探訪(西日本編)

前回〈東日本編〉の続編です。黙々と行う文字起こし作業のちょっとした息抜きとスキルアップを兼ね、日本各地の「地名」と「注意すべきポイント」を解説します。正しい地名表記は反訳原稿の質を上げ、依頼者に好印象を与えられるでしょう。

 

「行ったつもり」の国内探訪-西日本編

 

1. 文字起こしのスキルアップにはディテールが重要

「神はディテールに宿る」といいます。ささいな点をおそろかにしないことが、結果的には原稿全体の質を上げることにつながります。前回のコラム「文字起こしの気分転換に 「行ったつもり」の国内探訪(東日本編)」でも述べたように、人は自分の生まれ育った地域に愛着を持っているものです。そこを間違えられると嫌な気分になり、ほかがどれほど正確に文字起こしされていても、2割引き、3割引きの評価を下されてしまいます。何も「地図マニア」になる必要はありませんが、多数の人が知っている地名や名所・観光地などは正しく表記しないと、反訳者としての資質・能力を疑われかねません。最低限、インターネットで調べられる地名ではミスをしないように注意しましょう。

 

文字起こしのスキルアップにはディティールが重要

 

2. 文字起こしのコツ(近畿~九州・沖縄地方の注意点)

〈東日本編〉に引き続き、今回は〈西日本〉の主な地名と、文字起こしで気をつけるべきポイントを解説していきます。

 

  • 近畿

京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山の、いわゆる「関西」地方を指します。長らく国の「都」であり、政治の中心地であったため、歴史と伝統が深く根づいています。そのためか、しばしば「関西弁を標準語に直さない」という依頼があります。今は他地域の人でも、テレビ番組などで関西弁を耳にすることが多いので、その際に「テロップがどういう表記になっているか」に注意する必要があります。文字に起こす際のヒントになるからです。また、時折、会議の途中にユーモアを交える人がいる点も気をつけなければいけません。

有名な史跡・旧跡の名前もよく登場します。京都・奈良の寺院群などは、ネットですぐに調べることができますが、「太秦(うずまさ)」「先斗町(ぽんとちょう)」といった地名や「上ル(あがる)」「下ル(さがる)」「入ル(いる)」といった京都独特の住所表記があるのも、知らないと音声と文字が一致しません。反訳者の基礎知識として身につけておきましょう。

 

文字起こしのコツとは 

 

  • 中国

鳥取・島根・岡山・広島・山口の5県を指します。かつて都のあった奈良・京都から見て遠国(主に九州)との間にあることから、「中国」と呼ばれるようになったとか。中国地方最大の都市は広島市。「原爆ドーム」と「平和記念公園」は、各地方議会でも頻繁に登場します。世界遺産「厳島神社」が別名「安芸(あき)の宮島」と呼ばれることも知っておきましょう(「安芸」は広島県の旧国名)。

「出雲(いずも)大社」(島根県)は本来、「たいしゃ」ではなく「おおやしろ」と読むのだとか。中国地方で一番高い山「大山」(鳥取県)は、「おおやま」ではなく「だいせん」といいます。日本最大規模の鍾乳洞「秋芳洞(しゅうほうどう)」は山口県の「秋吉台(あきよしだい)」にあります。両者で漢字と読み方が異なっている点に要注意です。「特牛(こっとい)」(山口県)など、音読み・訓読みの知識が通用し難い地名もあります。

 

 

  • 四国

「四国」の名前どおり、愛媛・香川・高知・徳島の4県から成ります。瀬戸内海に浮かぶ「小豆島」の読み方は、「こまめじま」でも「あずきじま」でもなく「しょうどしま」で、香川県に属します。四国といえば、真っ先に思い浮かぶのが88の札所を回るお遍路。弘法大師が修行した足跡をたどることで徳を積むことができるとか。いろいろ作法があるそうなので、これを機会に調べてみてはいかがでしょうか。

難読地名では、「栗林(りつりん)公園)」「金刀比羅宮(ことひらぐう)」(香川県)や「大歩危・小歩危(おおぼけ・こぼけ)」(徳島県)、「足摺(あしずり)岬」(高知県)などがあります。また、滋賀県大津市/三重県津市と並んで、しばしば混同される県庁所在地の愛媛県松山市/島根県松江市は、間違わないようにしっかり覚えておきましょう。

 

 

(4)九州・沖縄

九州を構成するのは、福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島の7県です。「軍艦島」(長崎県)から「桜島」(鹿児島県)に至るまで、多数の観光地に加え、九州新幹線が開通したことで、こちらも「誘客」に関する話題が多いようです。「直方(のおがた)」「八女(やめ)」(福岡県)、「武雄(たけお)」(佐賀県)、「壱岐(いき)」(長崎県)、「人吉(ひとよし)」(熊本県)、「日向(ひゅうが)」(宮崎県)や「鉄輪(かんなわ)温泉」(大分県)、「指宿(いぶすき)温泉」(鹿児島県)などは、知らないと音声すら聴き取れないかもしれません。また、鹿児島県の「川内(せんだい)」を宮城県の「仙台」と誤変換しないように要注意。

沖縄も、北海道と並んで難読地名の宝庫です。那覇はともかく、「喜屋武(きゃん)」「東風平(こちんだ)」「北谷(ちゃたん)」「南風原(はえばる)」など、調べなければ聴取不能のブランクかカタカナだらけの原稿になってしまいます。

 

地名でのミスをなくす

 

3. 文字起こしに求められる幅広い知識と検索力

ある自治体の会議記録を文字起こしするとき、必ずしもその地域の話題だけに終始するとは限りません。議員が視察に行ったり、児童・生徒が修学旅行に出かけたりして、遠方の地名がいきなり出てくることがあります。友好都市協定を結んでいる外国の地名が登場することもあります。だからこそ、文字起こしを行う反訳者には広範な知識が求められるのです。

 

おしまいに、3つ問題を用意しました。あえて答えは載せませんので、まずは知識だけで、分からなければ検索力を発揮して、ぜひ正解を見つけてください。

 

Q1 「日本三景」とは、どこでしょう?

Q2 「日本三名園」とは、どの都道府県にある何園でしょう?

Q3 「日本三名瀑(めいばく)」とは、どの都道府県にある何滝でしょう?