2020年11月13日

プロが語る文字起こしの基本 ”用事例は座右”で表記のブレを防ぐ

文字起こしには「字遣い」に関する〈ルール〉があります。ある言葉を漢字/ひらがな/カタカナのどれで表記するか。日記やエッセイではないので、自分勝手な字遣いをすることはできません。プロ反訳者が従うその〈ルール〉をご紹介します。

 

文字起こしに関するルール

 

目次

1. 高品質な文字起こしのために字遣いをそろえる

長時間にわたる会議や講演を文字起こしするとき、全体を幾つかに分けて、複数の反訳者で作業を分け合うことがあります。このとき、もし字遣いに決まりがなく、各自が好き勝手に表記していったらどうなるでしょう。1行前は漢字だった語句が、次の行ではひらがなになり、次の行ではまた漢字に戻ったり……出来上がった原稿は、統一感に欠けた格好の悪いものになってしまいます。

また、一人の反訳者が全部を文字起こしする場合でも、前半と後半で字遣いが変わってしまったら、やはり読み手に混乱を与えかねません。

文字起こし原稿は「全体で一つの作品」です。品質を上げるためには、統一性を大事にしなければいけません。

 

 

2. プロの反訳者が使用するルールブック〈用字例〉

そこで登場するのが、〈用字例〉という一風変わった辞書です。かなり国語好きな方でも、存在をご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

一般の国語辞典には、語句とその意味、用例、解説などが書かれていますが、「用字例」には意味に関する説明はほとんどなく、単に「表記の仕方」が載っています。

例えば、あ行の中に「あっせん」という言葉があります。これは、「反訳原稿で『あっせん』という語句を使用するときは、『斡旋』でも『あっ旋』でも『アッセン』でもなく、ひらがなで『あっせん』と表記すること」を指示しています。

このように、〈用字例〉には様々な言葉の「表記の仕方」が載っています。反訳者がこのルールに従うことで、複数人で作業する場合でも統一した字遣いを守ることが可能になるのです。

 

反訳者が従うべきルール

 

 

3. プロの反訳者が主に使用する〈用字例〉はこれ

「物を書くこと」をなりわいとする業界では、〈用字例〉は必須のバイブルです。新聞社や出版社などでも、各社ごとに〈用字例〉を定めています(書店注文で購入可能なものも有)。「原稿の統一性」、つまり「品質を一定に維持する」ためのよりどころとなっています。ただし、辞書ごとに細かな差異はあれど、どの〈用字例〉も内閣告示の「常用漢字表」に基づいているのは同じです。

実はこの常用漢字、幾度かの変更を経て、平成22年に大改訂が行われ、それまでは使用不可だった難しい漢字がたくさん使えるようになりました。そのため、改訂以前と以後で出版物の字遣いに変化が見られます。興味を持たれた方は、第二次大戦後に決められた「当用漢字」から続く表記の変遷を調べてみてはいかがでしょうか。

そんな中で、反訳者が主に使用しているのが、日本速記協会が発行している「標準用字用例辞典」です。文字起こしの作業中は、この辞書を常に手元に置いておかなければなりません。

 

 

4. 音声認識との差別化のためにも〈用字例〉を覚えよう

字遣いをそろえることは、AI(人工知能)による音声自動認識に対し、人の手による文字起こしに一日の長がある部分です。

文字起こしとは、単に「聴こえた音声を文字化する」だけの単純作業ではありません。後で読み返したときに全く理解できないようでは、記録としての意味がありません(もちろん、そもそもの発言内容自体が意味不能だった場合は別)。

反訳原稿は、当サイトのコラム「こなれた整文反訳とは 文字起こしは誰のため?」でも触れているように、「人が読むこと」を前提に「読み物としての一定の完成度」も求められます。「表記の統一」はその一助となります。

したがって、反訳者には「正確な聴き取り」「正確な文字化(誤字脱字をしない)」にプラスして、「表記をそろえる」というもう一つの命題が課せられます。そのためには、どうしても〈用字例〉を覚えなければなりません。

「辞書一冊丸々覚えるのなんて無理!」と思われた方、どうぞご安心を。

現実の世界で一般の人々が使う語彙は意外に少ないもの。そして、繰り返し登場する言葉は自然と記憶に残ります。代表的な字遣いの20や30は、いつの間にか頭に刷り込まれていきます。

 

文字起こしにおける表記の統一

 

 

5. 文字起こしの字遣いが音声によって変わる〈用字例〉

とはいえ、初めのうちは、嫌になるほど〈用字例〉をめくって表記方法を確認しなければなりません。それは避けては通れない道。筆者の苦い経験では、「きっとこうだろう」と面倒くさがって調べなかったときに限って、ほぼ間違えているものです。

いくら常用漢字に基づいていても、「音声の文字化」という特性から〈用字例〉には少々特殊な字遣いがあるからです。

一例を挙げると、「(帽子を)かぶる」と「(被害を)こうむる」は、どちらも漢字で書くと同じ「被る」となりますが、〈用字例〉の表記では「かぶる」はひらがな、「こうむる」は漢字で「被る」となります。これは、「発言者がどちらの音を発言したか」を記録にとどめなければならないからです。

ほかにも「先立って(さきだって)」と「せんだって」など、音によって表記を使い分けるものが幾つかあります。そのため、やはりきちんと確認しないとミスを犯してしまいます。

 

 

6. 文字起こしの基本〈用字例〉を覚えて効率アップ

初心者のうちは、〈用字例〉を調べることに時間を取られ、反訳作業は遅々として進まず、いらいらすることでしょう。ですが、この基礎をおろそかにすると、いつまでたっても〈用字例〉を覚えられず、作業速度を上げることはできません。まさに「急がば回れ」です。

また、工夫次第で作業効率をアップすることもできます。反訳者の中には、一々辞書を開かずに済むよう、頻回に出てくる語句は付箋に書いてパソコンに貼りまくっている人もいます。

本格的な文字起こしに挑戦してみようと思われた方は、「正確な聴き取り」「正確な文字化」「表記の統一」の3つの基礎を大事にしてください。

何であれ、基礎を大切にしなければ大成することはありません。頑丈な土台があって初めて壮大な建築物を建てることが可能になるのです。

 

基本を覚えて反訳作業の効率をアップする

 

 

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