2020年03月16日

反訳とは テープ起こし・文字起こしや音声認識と何が違う?

文字起こしの業界では「反訳」という言葉がよく使われます。
翻訳」に響きが少し似ていますが、耳慣れない用語です。
確かに、私たちはこの用語を普段の暮らしで使うことが全くありません。
なぜ使わないかといえば、必要がないから。

そんな「反訳」という言葉が、文字起こしの業界で使われる理由は何なのでしょうか。

反訳して文字に起こす

 

1. 速記するしかなかった時代のなごり

ここで少しだけ、文字起こしの歴史をひもといてみたいと思います。

その昔、音声を文字に起こすのは、今よりもはるかに大変な作業でした。
一般に、人の話は1分間で300前後の文字数になるといわれます。
これを筆記するには、1秒間に5文字前後を書き留めなければなりません。
このため、先人たちは速記文字を開発し、話の速度に追いつこうとしました。

我が国の速記には、衆議院式・参議院式など、さまざまな方式があります。
いずれも、簡単な線や点のような符号を用いるので、まるで暗号のようです。
これを誰もが読めるようにするには、解読し、整えた文章に書き直さなければなりません。

暗号を解読する

このように、ある言語を別の言語に変換する作業は、どこか翻訳を思わせるものです。
話されている言葉を文字列に置き換えるにあたり、いったん略式の言葉に変換する。
そして再び、読みやすい形で元の言葉に戻す。
それを「反訳」といったのでした。

この「読みやすい形に変換する」というところに、文字起こし業界の存在意義があります。

2. 速記をしなくて済むなら反訳も不要に?

速記文字の時代、音声を記録するには万年筆や鉛筆で紙に書き留めるしかありませんでした。
その後、速記用のタイプライターや、ワードプロセッサーが開発されます。
手で「書く」かわりにキーボードで「入力」することが可能になったのです。

また、録音装置の出現によって、音声は電気信号に変換して記録できるようになりました。
聞き逃したり、聞き取れなかったりしたところがあれば、何度でも繰り返して再生できます。
録音の方式もアナログからデジタルに進化して、音源の質も飛躍的に向上しました。
再生の速度や音程も、文字起こしに都合のいい状態にコントロールできます。

こうして今や、わざわざ速記文字を介さなくても、音声は直接、文字に起こすことができます。
かつての意味での「反訳」が必要になることは、どんどん減っていくことでしょう。

音声を録音して自在に再生しながら文字起こしする

3. 音声から文字列の自動生成も可能な現代における「反訳」とは

昨今はAI(人工知能)を応用した音声認識による、文字列生成の自動化も実用化されてきました。
音声認識では、キーボードで入力するよりも短い時間で文字列を生成することが可能です。
録音するまでもなく、リアルタイムでの文字列生成をうたうサービスも登場しています。

ただ、自動で生成された文字列は、精度の面でまだ完璧とはいえません。
音声ファイルの文字起こし 自動の音声認識と手入力のタイピングはどちらが確実?」で概説した通り、読みやすさの面でも改良の余地がまだ残っています。
このため、「読みやすい形に整える」作業がどうしても必要になります。

よって、「反訳」という言葉には、たとえ時代が変わっても、
正確で読みやすい文章に仕立てる手間をかけた文字起こし」という意味合いが、
今後も残り続けることでしょう。