ローマ字入力とカナ入力 文字起こしの効率化にはどちらが有利?
文字起こしに時間をかけずに済むためには、単語登録を使いこなすことによって入力時の打鍵数を減らしたいものです。カナ入力も有効ですが、ローマ字入力に慣れた人にとっては現実的でないため、どうすればよいかを考えてみたいと思います。
目次
1. ローマ字入力は音韻あたりの打鍵数がどうしても多くなる
カナ入力の場合、キーボードの各キーには日本語の50音が割り当てられています。濁音や半濁音、拗音や促音の入力時には追加のキー操作を伴うものの、日本語の音声を入力するのに必要な打鍵数は、基本的に1音あたり1回ほどで済みます。
これに対し、ローマ字入力では、50音のうちア行の音(ア・イ・ウ・エ・オ)や撥音(ン)以外は、子音のアルファベットと母音のアルファベットを組み合わせてキー入力することになります。このため、カナ入力に比べると打鍵数が2倍前後になり、スピードの面で明らかに不利になるという印象があります。
2. 文字起こしの現場ではローマ字入力派も少なからず存在する
文字起こしの業界では、まさに入力のスピードが生産性に直結します。それゆえ、担い手たちはカナ入力派が多いのかというと、必ずしもそのようなことはないようです。複数のスタッフを擁する専門業者の中には、ローマ字入力派とカナ入力派が両方いるところも稀ではなく、双方が入力の速さを競ってさえいるといいます。
カナ入力するのに比べて音韻一つあたりでは2倍前後の打鍵数を必要とするローマ字入力が、文字起こしの世界ではスピードにおいてカナ入力に比肩し得るのはなぜなのでしょうか?
3. 単語登録で入力を効率化するのはどちらも同じ
文字起こしを効率化してスピードアップを図るには単語登録が有効であることを、当サイトでは重ねてお伝えしています。以下のコラムでは、ローマ字入力派の熟練者のケースを紹介してきました。
ですが、単語登録による入力のスピードアップは、カナ入力派だって当然しています。
ローマ字入力派がカナ入力派に拮抗し得るならば、その理由を知りたいと思い、両者の単語登録のしかたについて、少し詳しく見てみることにしました。
4. 個々の単語登録においてもカナ入力は優位だが……
上記の各コラムに登場していたローマ字入力派の熟練者(以下、「甲」)は、同じ職場に入力スピードで一二を争うカナ入力派の同僚(以下、「乙」)がいます。二人とも単語登録の優れた使い手で、登録している語句には共通のものも見受けられました。その一部は次のようなものです。( [角カッコ] 内の数字は「単語登録しなかった場合の打鍵数」-「単語登録した場合の打鍵数」)
(対象語句) (甲の単語登録) (乙の単語登録)
- という f [4–1] う [3–1]
- ということ fk [8–2] うこ [5–2]
- というのが fga [8–3] うか [6–2]
- というのは fha [8–3] うは [5–2]
- というのを fwo [8–3] うわ [6–2]
- において not [6–3] にお [4–2]
- におきまして niott [11–5] におお [6–3]
- について it [7–2] につ [4–2]
- につきまして itt [12–3] につつ [6–3]
- に関して nikt [9–4] にか [5–2]
- に関しまして niktt [13–5] にかか [7–3]
- に関する niks [9–4] にかる [5–3]
- に対して nit [9–3] にた [5–2]
- に対しまして nitt [13–4] にたた [7–3]
- に対する nits [9–4] にたる [5–3]
- に当たって niat [8–4] にあ [5–2]
- に当たりまして niatt [13–5] にああ [7–3]
- に伴い nim [9–3] にと [5–2]
- に伴いまして nimmm [15–5] にととと [8–4]
- に伴って nimm [11–4] にとと [6–3]
- に伴う nimu [9–4] にう [5–2]
- を踏まえた wofta [9–5] わふた [5–3]
- を踏まえて wofta [9–5] わふ [5–2]
- を踏まえまして woftt [13–5] わふふ [7–3]
累計 [230–89] [132–59]
この一覧表を見る限り、単語登録して効率化を図っても、甲のローマ字入力は個々の単語の入力において、乙のカナ入力と同等乃至は2倍の打鍵数を必要としています。語句一つあたりの平均でみると約1.5倍の打鍵数(89÷59)となるようです。
5. 長時間の文字起こしでは差が相対的に縮まる可能性がある
ある会議の音声(2時間弱)の文字起こしをした場合、これらの単語登録が効率化にどの程度効いてくるのかを、各対象語句に要する打鍵数に出現回数を乗じて、甲と乙で比較しました。( [角カッコ] 内の数字は「単語登録しなかった場合の打鍵数の小計」-「単語登録した場合の打鍵数の小計」)
(対象語句) (出現回数) (甲の打鍵数) (乙の打鍵数)
- という 155 [620–155] [465–155]
- ということ 110 [880–220] [550–220]
- というのが 14 [112–42] [84–28]
- というのは 26 [208–78] [130–52]
- というのを 11 [88–33] [66–22]
- において 1 [6–4] [4–2]
- におきまして 2 [22–10] [12–6]
- について 72 [504–144] [288–144]
- につきまして 65 [780–195] [390–195]
- に関して 2 [18–8] [10–4]
- に関しまして 1 [13–5] [7–3]
- に関する 5 [45–20] [25–15]
- に対して 10 [90–30] [50–20]
- に対しまして 4 [52–16] [28–12]
- に対する 4 [36–16] [20–12]
- に当たって 1 [8–4] [5–2]
- に当たりまして 1 [13–5] [7–3]
- に伴い 0 [0–0] [0–0]
- に伴いまして 2 [30–10] [16–8]
- に伴って 0 [0–0] [0–0]
- に伴う 1 [9–4] [5–2]
- を踏まえた 2 [18–10] [10–6]
- を踏まえて 1 [9–5] [5–2]
- を踏まえまして 1 [13–5] [7–3]
累計 [3,574–1,019] [2,184–916]
以下の議論は、熟練者甲・乙が共通して単語登録していた上記24語句に限ってのもので、他の様々な語句を含む2時間弱にわたる音声の文字起こし全般には安易に敷衍できませんが、単語登録による効率化の程度には、ローマ字入力の甲とカナ入力の乙とで差が見て取れます。
甲によるローマ字入力では、累計の打鍵数を28.5%(1,019÷3,574)まで削減できているのに対し、乙によるカナ入力では41.9%(916÷2,184)に抑えるにとどまります。その結果、これら24の語句の入力に要した甲と乙の打鍵数の差は約1.1倍(1,019÷916)にまで縮小しています。
甲によるローマ字入力が乙によるカナ入力よりも余計に要する打鍵数は、上記の単語登録を活用しなかった場合1,390(3,574-2,184)だったのが、単語登録の活用によってほぼ13分の1の103(1,019-916)にまで詰め寄れていました。
6. ローマ字入力をハンディキャップとしないために
以上の考察は、甲と乙で単語登録の巧拙に差がある可能性を考慮していない点も含め、科学的検証とは程遠いものながら、
- ローマ字入力は、単語登録の工夫次第で、カナ入力と遜色ない程度にまで打鍵数を抑えることができる
- 出現頻度の多い語句を、できるだけ少ないキー入力で単語登録することがカギ
ということまでは言えそうです。