在宅ワーカーや副業で人気の文字起こし どんな人が向いている?
テレワークブームで、在宅でも可能な〈文字起こし〉に興味を持たれる方が多いようです。テープリライターは副業としても人気のある職種の一つです。でも、未経験者でも簡単に取り組める仕事なのでしょうか。反訳者に求められる資質とは?
目次
1. 文字起こし/録音反訳/テープ起こし どう違う?
「文字起こし」「録音反訳」「テープ起こし」……様々な呼び方がありますが、意味するところはどれも同じ。録音された音声を聴き取り、ワープロソフトなどで文字化していく作業を指します。録音機材の発達によって生まれた比較的新しい職種のため、まだ統一した呼称が定まっていません。
一般的には、「文字起こし」「書き起こし」などと呼ばれています。また、求人広告では「テープリライター」も使われますが、プロの世界では専ら「(録音)反訳」を用います。文字化作業を行う人を「反訳者」といいます。なので、「私は反訳者です」と聞くと、「ああ、経験のある人だな」とすぐに分かります。
ちなみに、筆者は、公的な書類の職業欄などには「原稿作成業」と記入します。最近は、職業の一覧中に既に「原稿作成業」という選択肢があるものもあり、○をつけるだけで済むようになりました。それだけ一般的な職種になりつつあるということでしょう。
2. 文字起こしを行うのに〈国語力〉はどのくらい必要?
反訳者に必要な資質の一番は、やはり何といっても〈国語力〉です。基本中の基本、これがないと話になりません。そもそも録音音声の中で何が語られているかを聴き取れないでしょうし、それを文字化するなど不可能です。
とはいえ、文学者並みに高いスキルを求められるわけではありません。専門家同士の特殊な会議を除けば、普通の人々が普通の言葉で話している内容がほとんどですから、日常会話と日本語の読み書きができれば、取りあえずは大丈夫。
ただし、本気で文字起こしに取り組むからには、それなりの覚悟が必要です。これから「日本語の奥深い世界」に分け入っていくことになるのですから、漢字、四字熟語、慣用表現、最新の流行語に至るまで、多岐にわたる〈日本語全般〉に興味・関心を持ち、覚えていかなければなりません。
3. プロ反訳者の〈漢字スキル〉は漢字検定の何級程度?
よく尋ねられるのが、「反訳者を目指すには漢検何級くらいが必要?」という質問です。
ご存じのように、日本漢字能力検定協会が行う漢字検定制度があり、10級(小学1年生程度)から1級(大学・一般程度)までのランクがあります。多くのテレビ局では、アナウンサー志望者には応募条件として「漢検2級取得」を課しているそうです。
筆者の個人的な意見では、プロ反訳者を目指すなら、やはり「漢検準2級(高校在学程度)~2級(高校卒業程度)」レベルの漢字力は欲しいところ。ただし、最初からそのレベルでなければいけないというわけではなく、経験を積んでいく過程で、そのレベルには達してほしいという意味です。
なぜなら、漢検2級までが〈常用漢字〉からの出題であり、過去のコラム「文字起こしのブレを防ぐ 用字例は座右が基本」でも述べたように、文字起こしのよりどころとなる〈用字例〉が〈常用漢字〉に基づいているからです。一人前の反訳者になるには、やはり〈常用漢字〉を使いこなせるだけの〈漢字力〉が必要になります。
4.文字起こしに必要なのは〈漢字力〉よりもボキャブラリー
確かに〈常用漢字〉をしっかり理解することは大切ですが、実際に文字起こしを行っていくと、〈漢字力〉よりもっと必要なものがあることに気づくはず。それは、ボキャブラリー(語彙)です。
初心者や経験の浅い反訳者の原稿は、聴取不能によるブランク(空欄)が多くあります。実際に録音状態が悪く、ベテラン反訳者ですら聴き取れないところもありますが、「ボキャブラリーが不足しているせいで聞き取れない」ものがほとんど。そういうブランクは、ベテラン反訳者なら簡単に聴き取って、すぐに埋めてしまいます。
何も特殊な専門用語ばかりではありません。例えば、「隔靴掻痒(かっかそうよう)」という言葉があります。「(靴の上からかゆいところをかくように)もどかしく思う状態」を表す四字熟語ですが、この言葉を知らなければ、「カッカソーヨー」とまるで外国語のように聞こえて、とても文字化などおぼつかないでしょう。
5.文字起こしに必要なボキャブラリーを増やす方法
プロの反訳者は、頭の中に一冊の分厚いノートを持たなければなりません。そして、知らない言葉に出会うたびに、そのノートに書き留めていく必要があります。そうやって言葉を蓄積していくことで、ボキャブラリーが豊かになっていくのです。ことわざ、四字熟語、慣用表現、新語……あらゆる言葉を片っ端にストックすることで、間違いなく原稿の穴(ブランク)は減っていきます。
このときに重要なのは、必ず「書かれた文字」を目にすることです。耳で聞いただけの言葉では、以前のコラム「文字起こしのミスにつながる『似音異義語』のわな」でも述べたように、間違った表記のまま覚えてしまうおそれがあるからです。音声と文字が常に一致するように、日ごろから「文字を読む」習慣を身につけましょう。
結論が出たようです。どんな人が文字起こしに向いているか。それは、言葉に興味・関心を持ち、「文字で書かれたもの」を読むことに苦痛を感じない人です。もしあなたが読書好き(新聞、雑誌を含む)なら、まずは反訳者の資質・適性があるといえるでしょう