2021年06月14日

文字起こしのコツ 外来語を日本語でどう表記する? カタカナで書こうにも……

文字起こしの基本を理解し、実際に作業をしていくと、本筋から外れた細かい部分で「どうしよう?」と悩むことがあります。その一つが「外来語」の取扱いです。外来語の表記には紆余曲折の歴史があり、しっかり定まっていないのが実情です。

 

外来語を日本語でどう表記する?

 

 

目次

1.「カタカナ」を「漢字」や「ひらがな」とどう使い分ける?

日本語を書き表す場合、主に3種類の文字が使われます。「漢字」「ひらがな」、そして「カタカナ」です。難しいのは、これら3種類の文字の使い分けがきちんとルール化されていないこと。一般の文章であれば、1つの単語をどの文字で書いても問題ありません。例えば、「問題ありません」「もんだいありません」「モンダイありません」どの表記も間違いではなく、読み手にちゃんと意味は伝わります。

読みやすさもあるので、「問題ありません」と漢字・かな混じりで書くのが普通ですが、絶対というわけではありません。クイズ番組でフリップに答えを書く問題で、漢字を間違えて不正解、ひらがなで書いた人は正解などという場面を目にしたことがあるでしょう。3種類の文字の使い分けは習慣・慣例によるもので、明確な決まりがないのです。

さらにややこしいのが、「問題」「もんだい」「モンダイ」の書き表し方で、読み手が受けるニュアンスが微妙に異なる点です。「もんだい」には幼稚な、「モンダイ」にはユーモラスな印象が感じられます。

 

 

2. 擬音語・擬態語・俗語・隠語…… カタカナは外来語の表記以外にも

3種類の文字の中でも、カタカナは特に異質な存在です。主には、外国から伝わってきた言葉─外来語の表記に用いられますが、ほかにも擬音語(ワンワンほえる)や擬態語(ゾッとする)、俗語・流行語(カッコいい、ウザい)、限られた業界の隠語(デカ、ホシ)に至るまで、幅広く便利に使われます。

これまで何度か述べてきたように、長尺の文字起こし原稿は、複数の人間で分割作業することがあります。そのときに、反訳者任せにして、よって立つルールを決めておかないと、字遣いがばらばらの原稿が出来上がってしまいます。

そんなときの指針になるのが「用字例」です。以前のコラム(「プロが語る文字起こしの基本”用字例は座右”で表記のブレを防ぐ」)でも述べたように、プロの反訳者は必ず手元に「用字例」(公益社団法人 日本速記協会発行「標準用字用例辞典」)というガイドブックを備えています。それに合わせることで、全体の意思統一を図っているのです。

果たして用字例では、カタカナにはどういう決まりがあるのでしょうか。

 

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3. カタカナで表記する際の原則 プロの反訳者が指針とする「用字例」をひもとく

用字例で原則カタカナ表記と決められているのが、

1.外来語、外国地名、外国人名

2.動植物名

3.カタカナで書く慣用のあるもの

4.俗語、隠語、擬声(音)語(擬態語はひらがな)

5.その他

「2」の動植物名は、ニホンザル、コオロギ、アサガオ、ニンジンなど、「3」の慣用のあるものとして、コク、ツケなど、それぞれ細かく例が挙げられています。ただし、各項目には例外があり、牛や馬、桜や梅など常用漢字に含まれていて一文字で書けるものは漢字表記になります(ニホンザルはカタカナであるのに対し、種としての「猿」は漢字になる点も要注意)。

もっと詳しく知りたい方は、ぜひ用字例を1冊お買い求めください。文字起こしに限定せず、ふだんの手紙やグループの会報を書く際などにも、とても便利です。ちなみに、当コラムでは、敢えて「ひらがな」「カタカナ」と書いていますが、用字例では「平仮名」「片仮名」の漢字表記が定められています。

 

 

4. 外来語のカタカナ表記も一筋縄ではいかない

今回は特に、1の外来語について詳述したいと思います。意外にも、これが反訳者にとって、なかなか手ごわい難敵なのです。

外来語のカタカナ表記は、時代によって微妙に変化・変遷しています。日にちを意味する英語の「Day」は、用字例では「デー」(ホリデー、バースデー)になりますが、近頃は「デイ」にしてほしいという依頼主からの要請が増えています。「デーサービス」を「デイサービス」に、という具合です。

これには、「カタカナ表記はなるべく原語の発音に近づけよう」という国全体の方針が関係しています。ほかにも、マスコミ・メディアでも「フェイス」「ディスプレイ」「プレイヤー」といった表記が現在は一般的で、用字例に定められた「フェース」「ディスプレー」「プレーヤー」は時代遅れになりつつあります。「ゴールデンウイーク」「ウオーキング」という用字例の規定も、「ウィーク」「ウォーク」(小さいィ、ォ)の一般的な表記と見比べると、古臭さを否めない印象です。

 

外来語のカタカナ表記は、時代によって微妙に変化、変遷している

 

 

5. 外来語の表記ルールは時代とともに変わる

クライアントからの特別の指示がない場合、プロの反訳者としては、修正されるのを承知で用字例どおりに文字化するのですが、作業しながら、じくじたる思いに駆られているのも事実です。

スマートフォンが登場したばかりの頃は、その略称が「スマフォ」なのか「スマホ」なのか、用字例に特に規定がなく、反訳者ごとに表記はまちまちでしたが、今では「スマホ」に統一されています。このように、過渡期のために規定が追いつかず、複数の表記が並立していても、いずれは1つに収れんしていくもの。プロの反訳者は、どちらの字遣いが優勢になるか、常に最新の情報に目を光らせていなければなりません。

とはいえ、新しい言葉は次々と、毎日のように生まれてきます。特に最近の言葉は、カタカナ表記に該当するものがほとんど。ずっと社会に定着するものもあれば、短命で消えていくものもあるので、用字例に採用・掲載されるまでは、どうしてもタイムラグが生じます。表記が確定するまでの間、反訳者たちは、もやもやした思いを抱えながら、日々の仕事に取り組んでいかなければならないのです。

 

どちらの字遣いが優勢になるか、常に最新の情報に目を光らせている